日本語あなどるなかれ。助詞の悩ましさ

翻訳のあれこれ

日本語あなどるなかれ。助詞の悩ましさ

突然ですが、以下を読んで情景は浮かびますか?

「白髪を薄紫に」

どうでしょうか?
日本語母語話者であれば簡単に状況がわかりますよね。白髪を薄紫色に染めたんでしょうね。
綺麗な白色になるようにですかね。

あるテレビ番組で芸能人が俳句の力を競う企画をやっていました。すると、俳句の先生が一喝。

「『を』と『に』を使うだけで情景が浮かぶでしょ!」

確かに。納得ですよね。
その番組のファンではありませんが、日本語がいつもと違った角度から学べるので、その番組がついていると何気なく見るようにしています。

前フリが長くなりましたが、つまり、助詞には絵を描く力があるのです。
では、助詞についてみていきましょう。

今あなどったでしょ?

はい、そこのあなた。
「日本語のことぐらいわかるよ。母語なんだから。」
そう思いませんでしたか?
思ってない方は、失礼しました、飛ばしてください。

そう思ったあなたに伝えたいのは、私たちは実は、ただの日本語ユーザーということ。
本当に理解して、正しく使っているプロフェッショナルは少ないでしょう。

通訳翻訳の訓練をする中で、私たちが学ぶものは、英語や特有のスキルだけではありません。
意外にも、かなりの比重で、日本語を学ぶのです。
もちろん、英語のように文法を一からというわけではありませんが、適宜意味を確認し、その場その場に適切な表現を覚える、というようなことをしています。なぜなら、私たちが発する言葉に原文の大切な大切な意味を乗せているので、言葉を正しく理解して使う責任があるのです。

訓練中に新しく学んだ日本語の言葉や表現は数えきれないほどあります。それはおそらく私だけではなく、訓練生はみんな、同じような経験をしていると思います。

そんな風に改めて「日本語」を見つめ直したことはありますか?
今がそのときです。

確認しよう。助詞って?

簡潔に言うと、助詞は単語と単語をつなぐ役割を担っています。「つなぐ」とは、意味上や文法上の関係を示すということです。例えば、「が」「を」「に」などです。

「東京外国語大学言語モジュール日本語」によると、主に、日本語の助詞には4種類あるそうです。

① 格助詞(case particle):を、に、が etc.
  主に名詞につき、その名詞と他の語(他の名詞、あるいは、動詞・形容詞)との意味関係を示す。
② 接続助詞:は、と、けれど etc.
  従属節の述語となる動詞・形容詞・名詞について、主節との意味関係を示す。
③ 副助詞(取り立て助詞、取り立て詞):は、こそ、さえ etc.
  さまざまな語について、特別な意味を付け加える。
④ 終助詞(sentence-final particle):か、な、ね etc.
  主に文末に現れ、話し手から聞き手への伝達に伴う態度などを表わす。

「は」「が」を考え直す

今回、特に、注目したいのは、副助詞「は」と格助詞「が」です。
では、下のかっこには「は」「が」どちらが入るでしょうか?

むかしむかし、おじいさんとおばあさん(1)いました。おじいさん(2)山へ芝刈りに、おばあさん(3)川へ洗濯に行きました。

正解は、
(1)が (2)は (3)は   
お馴染みの!です。サービス問題ですね〜!

なぜこのような解答になるのでしょう?
これは以前にも少しお話しした情報構造と関係しています。

(1)では、おじいさんとおばあさんは、皆さん(読み手)とは初めましてですね。ですが、(2)(3)では、もうお知り合いですよね。これは情報構造に関連しているのです。このとき、鍵となるのは、「新情報」「旧情報」という言葉です。
つまり、その情報が新しいか古い(旧)かを判断して使い分けるのです。

「が」→新情報=聞き手/読み手が知らない情報
「は」→旧情報=聞き手/読み手が既に知っている情報

なんて言っていますが、私も正しく使えているのかというと…実はハテナなんですよね。
では、例をみてみましょう。

“Who Moved My Cheese?”より

最後の章 “Discussion” では、人がたくさん登場し、いろいろなことを好き勝手言い合っています。
その中には、この章で、初めて登場する人もいます。そんな章の一部を取り上げます。

Carlos said,
“An unexpected change of jobs.” 
Michael laughed. “You were fired?”

Yuki:カルロスが答えた。
   「仕事の予期せぬ変化。」
   マイケルは笑った。

   「クビになったの?」
Rina:カルロスはこう言う。
   「仕事における、予想外の変化」
   マイケルは笑った。

   「クビになったのか?」

この2つの訳は、選ぶ言葉の違いこそありますが、内容は同じですね。おそらく、上記を読まなければ、内容が合ってるなら良くない?と思われていたかもしれません。ですが、もう助詞という細かい部分に注目している以上、気になりますよね。

カルロスもマイケルも既に登場している人物です。
じゃあ、もう読み手は知っている情報だから旧情報だし、「は」が正解?
そうだと思います。

ただ、「が」と「は」を使うことが間違いだと思えなかったので、ちょっと卑怯ですが、
上記以外の助詞の意味をもう少し調べてみました。

内藤(2000)「助詞『は』と『が』の分析」曰く、
「が」= 他の誰でもなく私が、という排他的な意味
「は」= 他の人のことは知らないけど私は、という周囲と区別する役割があるというのです。

(他の誰でもなく)カルロス「が」答えた。
     ↑
     ↓
他のみんながどんな反応したか知らないけど)
 マイケル「は」笑った。

このかっこ内の感覚を表したかったのです。
ただ、原文がそこまでのことを伝えようとしているかは微妙です。だから、やはり、この場合、どちらにも「は」を使う方が良いのかもしれません。

みなさんはどう思いますか?
ぜひ、自分なりの答えを見つけてみてください!

まとめ

・助詞には絵を描く力がある

・助詞をはじめとして日本語学習は通訳翻訳では必須

・助詞はだいたい4種類ある

・情報は新しいか古いか考えよう

・実は4種類以外の意味もある

助詞なんてピンポイントなテーマだと思われたことでしょう。でも、これは助詞は核であり、細かな情景を伝える工夫を凝らせる点でもあるのです。ただ、一歩間違えれば誤訳になるリスクも抱えています。だからこそ、私たちはその細かな言葉にこだわらなければなりません。このように、私たちはあーだこーだ言いながら、言葉について考えています。
みなさんも日々の言葉遣いを少し見直してはみてはいかがでしょうか?
面白い発見があることでしょう。

参考文献
庵功雄・日高水穂・前田直子・山田敏弘・大和シゲミ(2014)『やさしい日本語のしくみ』くろしお出版.
内藤淳(2000)「助詞『は』と『が』の分析」(accessed; Feburary 25th, http://www2.dokkyo.ac.jp/~esemi008/kenkyu/naito.html#bunken
東京外国語大学「助詞とは」『東京外国語大学言語モジュール』(accesssed: February 25th, http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ja/gmod/contents/explanation/052.html

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