ちがいはなんだ?:眠い/眠たい

翻訳・ことば

眠い?眠たい?

ある日の午後、母と夕食の買い出しに出かけた時のことです。
「あー、お母さん、眠たいわー。」
「お母さんも眠いなー。」
「お母さん、眠いと眠たいって何が違うんやろな?」
「え、一緒ちゃう?」

いやいや、そんなはずはない!一緒じゃないでしょ!だって、わざわざ「たい」なんて言葉付け足しているんですよ!?

そんなわけで、みなさん、この違いについて一緒に考えてみませんか?

当たり前を確認しておこう

私は日本語母語話者なので、わざわざ言葉の意味を調べる必要はなさそうですが、
まあ、そう言わずに、一度確認しておきます。

眠い・・・眠りたいと感じる。ねむたい。
眠たい・・・ねむい。ねむりたい。
              (明鏡国語辞典)

いや、一緒やないかい!と突っ込みたくなりませんか?
「眠い」の説明にも「眠たい」が使われてるし、「眠たい」の説明にも「眠い」が使われてしまっていますね。

じゃあ、「眠たい」って言葉必要ですか?

「たい」の存在意義

諦めず、もうちょっと調べてみました。

NHK放送文化研究所のウェブサイトで「眠い」と「眠たい」の違いについての質問があり、以下がその回答です。

「眠い」より「眠たい」の方が実感がこもっている感じ

だとか。

ちなみに、同ウェブサイトの回答で紹介されていたのですが、

明治時代には、上方(関西)では、「ねぶたい」と言い、それは「眠い」「眠たい」より古い言葉

だとか。確かに、年配の方が「ねぶたい」と言っているのをよく耳にします。(関西在住なので。)
ねぶたい→眠たい→眠いと移り変わったのかもしれませんね。

外国語学習者が学習言語の母語話者に質問ができるウェブサイト “HiNative” でも、同じ質問がされていました。それに対し、日本語母語話者の方がまた別の観点からお答えになっていました。

「眠たい」はカジュアルな表現。子どもっぽく聞こえるかもしれない。

なるほど。そういう印象を与えることもあるんですね。

NHK放送文化研究所の言葉を考慮すると、
「眠たい」の方がより実感がこもっている→より感情的→子どもらしさ
という流れでイメージが形成されたのかと想像できます。

この情報がどれだけ信用できるものかという判断は皆さんに委ねますが(無責任ですみません)、やっぱり、違いがあることは事実ではないでしょうか。少なくとも、そのように違いを感じる人がいることは事実です。

Black Beautyではどうだろう?

散々「眠い」「眠たい」について考えてきましたが、それ以外でも同じような形を持つ言葉があります。それについては、私たちが翻訳訓練で扱ったBlack Beautyから例を取り上げて考えてみます。

舞台は19世紀のイギリスです。当時、移動手段はもっぱら馬でした。その馬に対しての哀れみを持って書かれた作品の一文です。

"Often the animals had to pull very heavy things, and they had to work for hours and hours."
Yuki: たびたび、動物は非常に重たい荷物を引いて、何時間も歩かされたものだった。
Rina: しばしばたいへんに重いものを運ばせられ、その労働は何時間にも及んだ。

面白いですね。

“heavy”に対する2人の訳は「重たい」と「重い」で異なりました。
Yukiの訳は、より実感がこもっており、主観的であると思います。
一方で、Rinaの訳は、事実を述べており、客観的であると感じます。

著者がその重さを実際に感じたわけではないので、ここでは「重い」の方が適切なのかもしれません。

しかし、作者は重労働を課せられた馬に同情し、この作品を作っています。なので、動物(馬)に対する情を伝えるのは、Yukiの訳かもしれません。
とはいえ、その当時、動物(馬)が重労働を強いられていたことは事実である、ということをサポートするのはRinaの訳かもしれません。

まとめ!

・「眠い」「眠たい」は同じ意味だが、与える印象やニュアンスが異なる

・「たい」がつくと、より実感がこもっており、主観的である

今回は小さなトピックでしたが、意識をして使い分けているという方よりは、無意識に使い分けているという方が多いと思います。私もそのうちの1人です。翻訳の活動(訓練)を通して、母語を見つめ直し、学び直す機会を得ています。今回のパターンだと、言葉の意味は同じです。ここがトリッキーですね。ただ、与えたい印象は目的によっても変わる(cf: 目的によって変わる翻訳)と思うので、些細な言葉選びにも気をつけていきたいものです。

参考文献
NHK放送文化研究所(2004)「眠い?「眠たい?」『気になる放送用語』https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/082.html
明鏡国語辞典 第二版. 大修館書店.

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