こんにちは!
本記事では、ふたりが本のタイトルについて話し合ったことを共有したいと思います!
私たちが翻訳の練習に使わせていただいた「チーズはどこへ消えた?」(スペンサー&門田, 2000 )という本ですが、“Who moved my cheese?”(Spencer, 1998)というのが原著です。原タイトルを直訳すると、「誰が僕のチーズを移動させた?」となります。ここで私たちが疑問に思ったのは、本当に「チーズはどこへ消えた?」という訳でいいのかということです。
1. 文脈から考える
このタイトル”Who moved my cheese?”ですが、本文の中にも何度か出てきます。 このセクションでは文脈から表現の意味、意図するところを考えていきましょう。
- 文脈1
一度目は、ヘムとハウという小人たちが食べていたチーズがある朝突然無くなっていた時のセリフです。
“What! No Cheese?” Hem yelled. He continued yelling, “No Cheese? No Cheese?” as though if he shouted loud enough someone would put it back. “Who moved my Cheese?” he hollered.
(Spencer,1998 p. 33)
「えっチーズがない!?」ヘムは大きな声で言った。「チーズ!チーズは!?」あたかも誰かがチーズを戻しに来てくれるかと考えているかのような大声だった。 “Who moved my Cheese?” 大声で叫んだ。(-筆者訳)
みなさんならこの文脈で、”Who moved my cheese” をどういった訳にしますか?
私たちは、一文前に「あたかも誰かがチーズを戻しに来てくれるかと考えているかのよう」ともあるように、ヘムはここで誰かによってチーズが動かされたと信じている気がしました。
私たちの解釈では、ここでのヘムの気持ちは、「おい!僕らのチーズきのうまでここにあったやん!誰が持って行ったん!?はよ戻しに来て?!(涙目)」みたいな感じなんじゃないかと。
この考えで行くと、「誰がチーズを持って行ったんだ!」あたりが妥当な気がします。
- 文脈2
二度目は小人のハウが、別の場所へチーズを探しに冒険に飛び出して、まだチーズのない場所に居すわるヘムについて考えている場面です。
Haw smiled. He knew Hem was wondering, “Who moved my cheese?” but Haw was wondering, “Why didn’t I get up and move with the Cheese, sooner?”
(ibid, p. 33)
ハウはにこっと笑った。だって、ヘムはこんな疑問を持っているはずだ。 “Who moved my cheese?”
でも、ハウが疑問に思っていたのはこうだ。「どうしてはやくチーズを持って移動しなかったんだろう?」 (-筆者訳)
みなさんならここの“Who moved my cheese?”はどう訳しますか?
私たちの解釈では、ここではどうしてはやくチーズを持って移動しなかったのかと悔やむハウと、誰がチーズを動かしたのかと、前に進めず以前の状況にすがりつくヘムの態度が対比されているのだと思います。
こちらは文脈1の続きのシーンで、しかも文脈1と同じ人物(ヘム)が言ったことなので、同様に「誰がチーズを持って行ったんだ?」が妥当な気がします。
2. ストーリーの全貌から考える
次はストーリー全体の流れやプロットから考えてみましょう。
物語全体で『チーズ』というものは、『必要な変化をもたらすために探し求めるべき何か』の象徴となっているのです。そして、物語最終章では若者たちがビジネスにおいてもプライベートにおいても自分の『チーズ』を探し求めるにはマインドをどう変えていけばいいのか、ヘムやハウの行動を参考に議論します。
そこでこんなセリフがあります。
“When I think back on what happened to us, I see that it’s not just that they ‘moved the Cheese’ but that the ‘Cheese’ has a life of its own and eventually runs out. “(ibid, pp.__)
「私たちに起こったことを思い返せば、『誰かがチーズを動かした』というよりかは『チーズにも命があって、最終的には尽きてしまった』という感じかな。(-筆者訳)
時代の流れに沿った行動を取ったり、変化に適応するために、私たちは『チーズ』を探し求めるのです。『チーズ』は、時代に合わせて追い求めていかなければならないもの。例えば現実社会においては新しいビジネスプランだったりとか。それが古くなってしまうのは誰のせいでもなく時代の流れによる変化なのです。
そう考えると、『チーズ』は時を経て移動していく。そして移動する『チーズ』を予測し、常に追い求めていくべきなのです。そう考えると、「チーズはどこへ消えた?」というフレーズもしっくりくる気がします。
翻訳に正解はないー様々な要素から決定される翻訳
しかし、いくら私たちの解釈を議論したところで同書の出版された翻訳書は「チーズはどこへ消えた?(スペンサー&門田, 2000)」一種類であり、これが完成版として世に出されているわけです。このフレーズはタイトルにも使われていることから、出版社側の販売戦略なども影響した結果の翻訳である可能性もありますね。
ここでみなさんにお伝えしたいことは、翻訳って決して一種類であるべきなんてことはないんです。実際名著と言われるような文学作品は複数の翻訳が出版されていますよね(例: The Catcher in the Rye や The Great Gatsbyなど) 。読者の好み、翻訳者の好み、出版社の販売戦略、その翻訳の使用目的などによって翻訳というのは何通りも存在して然るべきです。
(この辺りに興味がある方は
マンデイ,ジェレミー. (2009). 翻訳学入門. 鳥飼玖美子監訳 みすず書房. 第7章『システム理論』pp. 166-194
を読んでみてください。)
まとめ
今回は”Who moved my cheese?” のタイトル翻訳について私たちが考え話し合ったことをシェアしてみました。
翻訳というのはひとつの文にたいして何通りも考えられるものですが、この記事ではその考え方や読み方を、事例を取り上げて考えてみました。
少しでもおもしろいなって感じてくれた方は、ぜひ私たちの二通りの翻訳を読んでみてください!
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