留学帰りの人が、日本語の中に英語を織り交ぜて話して、「おいおい海外かぶれかよ~」って言われる話、よくありますよね。
個人的には、翻訳を勉強するようになってからは特に、日本語の語彙や表現の豊かさもすごく大切だと考えるようになりました。日本語のみを話す人と会話をする時には、英単語が先に浮かんでも頭の中で日本語に訳して伝えるようにしています。
(日本語の大切さについての記事もぜひ読んでみてください!
– 「日本語あなどるなかれ。助詞の悩ましさ」)
それでも、ある英単語を知ってしまったがゆえに日本語で話しにくくなる時があります。
どんな時でしょうか??
本記事ではそんな事柄を socialize と judge という2つの単語を例に挙げてお話したいと思います。
単語が指し示す概念の範囲 – ① socialize
まず、socializeの定義から見ていきます。今回は、自動詞の場合のみに注目します。
- [自][…]と打ち解けて交際(おしゃべり)する.(mix with)社会活動に参加する.(ジーニアス英和辞典)
- 社交的に活動する, (…と)交際する(with).(Weblio英和辞典)
- 打ち解けて付き合う、仲良く交際する(Berlitz)
- to spend time when you are not working with friends or with other people in order to enjoy yourself (Cambridge Dictionary)
意味のイメージがつかめたところで、
“I miss socializing under this situation.”
この文を日本語にしたらどうなるでしょうか?
「こんな状況で、そろそろ友だちが恋しい」→「そろそろ友だちと遊びたい」…?
では、これはどうでしょう?
“They’re content to socialize with a very small circle of people.”
「あの人たちは、少人数での交流で満足している」?
socialize という同じ単語なのに、訳は「遊ぶ」から「交流」に変わりましたね。なぜでしょうか。私は、socialize の概念をすべて包括する単語が日本語にないからだと考えます。
このように、socialize の意味を説明する日本語は複数必要です。日本語の各表現は重なる部分もあると思いますが、別の表現が存在する以上、まったく同じイメージを想起するものではないでしょう。
しかも、英語話者がsocialize という時はどの概念も省いていないのです。しかし、例えば上記のように日本語で「遊ぶ」とすると、字面からはただ遊んでいるだけで「仲を深めている」感じは一瞬で伝わるわけではないと思います。
そして、英語を学習している人の頭の中で、 socialize という単語の意味が、イメージとして定着したとき、「あれ?日本語て何て言ったらいいんやろう…?私は…ソーシャライズ…したい…」みたいなことが、起こるわけです。
単語が指し示す概念の範囲 – ② judge
では、judge はどうでしょうか。英語も話される方はもう何の話かお分かりかもしれません。
実は judge って、カジュアルな会話でよく使われるんですよね。
「ジャッジ」と聞くと裁判官とか審判とか、公平に判断を下すような場面を思い浮かべる人もたくさんいることでしょう。しかし、ここではカジュアルな会話でよく使われる、ネガティブな意味の judge のみに注目します。judge には次のような意味があります。
- to express a bad opinion of someone’s behaviour, often because you think you are better than them
e.g. You have no right to judge other people because of what they look like or what they believe.(Cambridge Dictionary) - to form an estimate or evaluation of… especially : to form a negative opinion about
e.g. shouldn’t judge him because of his accent(Marriam-Webster)
つまり、外見などにたいする偏見があり、相手を見下しているようなニュアンスが強いです。
日本語の辞書にも「…を批判する」「…を非難する」という意味が載ってはいますが、英英辞書に書いてある意味ほどネガティブな意味は含まれていないような気がします。
こんな風に、英単語 judge を日本語で分解するとこんな意味があります。使われる文脈がカジュアルであることを考えると、友だち同士の会話で「偏見を持って私を批判しないでよ!」とか、「見下して避難しないで!」とか言うのは、あまり想像がつきませんよね。
文脈によっては、「見下さないでよ!」とか「私を否定しないでよ!」なんて言えるかもしれませんが、すべての要素を入れて一言で表すのは難しそうです。
一度 judge の意味を知ってしまった英語学習者、またはバイリンガルの人が、”Don’t judge me!” というセリフがあったとして、「judge しないで!」が、一番しっくりくるのはこういった理由があるんだと思います。
最後に – 翻訳できない言葉はない
では、翻訳する時にはどうすればいいのでしょうか?
ここまでしっかり読んでくださった方は、「英単語そのまま言うのがしっくりくるなら翻訳なんて無理やん」って思われるかもしれません。
しかし、翻訳をする際には必ず文脈や目的があり、考える時間、調べる時間があります。
翻訳者の方々は 「socialize には適した日本語がないからソーシャライズって言っちゃお~」なんて面倒くさがったりせずに、時間をかけてそれぞれの文脈や目的に合った訳を考えています。
原文の著者なんかも考えているかもしれませんね。この人が書く文なら日本語でいうとあのあたりだろう…なんていう風に。
翻訳学の分野では有名な言語学者 Jakobson も、翻訳をする際にはひとつひとつの意味のかたまり(ユニット)ごとにするのではなく、文書全体のメッセージを別の言語で表現するので、どんな言語でも翻訳はできるのだと述べています(Munday, 2013)。
最後はがっつり翻訳の話になってしまいましたが、自分が翻訳をする時も、原文の意味を正しく読み取り、様々な要素を考慮に入れながら、適した表現を模索していきたいです。
ご意見ご感想など、いつでもお待ちしております。
参考文献
Munday, J. (2013). “Chapter 3 Equivalence and equivalent effect”. Introducing translation studies: Theories and applications. pp. 58-85. Routledge.
英会話中級者必見!意外と難しいjudgeという動詞とその形容詞の意味. (2017, July 11th). Retrieved from https://ecoecoenglish.com/archives/3059.
今回説明したような、バイリンガルや通訳・翻訳者の頭の中で起こっていることは、認知言語学の分野で研究されています。あまり詳しくないので特定の本の章などは紹介できませんでしたが、認知言語学がおもしろそうだと思われた方への文献を2つだけ、載せておきます。
池上嘉彦. (1981). 「する」 と 「なる」 の言語学: 言語と文化のタイポロジーへの試論. 大修館書店.
高橋英光.(2010). 言葉のしくみ: 認知言語学のはなし. 北海道大学出版会.
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