チェック工程の言語化の必要性

学び・気づき

私たちは無事に大学院を修了し、オカムラは企業に就職しました。
制作系の会社で翻訳に関わる業務を行っています。実務ではありませんが、翻訳プロセスで言うと上流に位置するような仕事(フローの管理など)をしています。

ということで、プロセス上流の仕事に関わってみて感じることを、翻訳に関わっている皆さまにお伝えしてみたいと思います。

翻訳プロセス:ISO17100

まず、そもそも翻訳プロセスとはどのようなものか確認してみます。

ご存知の方も多いかもしれませんが、翻訳プロセスは国際的に規定されており、ISO17100という規格が存在します。これは人間の翻訳者が関わるプロセスに注目しているものです。

右の図をご覧いただくとお分かりいただけるように、このプロセスにはチェック工程が必須なのです。

ちなみに、私はプロセス上流と言いましたが、この図で言うと、プロセス管理(4.1/5.1/5.2)のような業務だけでなく、真ん中の水色の段の4.2/4.3~4.6のあたりにも関わっています。

チェックとは?

基本的には翻訳プロセスにはバイリンガルチェックが必須ですが、モノリンガルチェック/プルーフリードは任意として規定されています。その名の通り、バイリンガルチェックでは、原文と訳文を見比べて、訳文のチェックを行います。一方で、モノリンガルチェックでは訳文だけをチェックします。ターゲット言語内で判断できること、つまり、主に文法や表現に間違いがないかを確認する作業だと言えます。

モノリンガルチェックが含まれる案件で、どのようにこのプロセスを進めるかはお客様次第です。翻訳会社側でチェッカーを手配することもあれば、お客様側で手配し、海外拠点の現地社員がチェックを担当することもあると思います。会社の意図を反映した表現になっているのか、決まった用語で訳出されているのかなどのダブルチェックをかけることが目的となることが多いようです。このことから、モノリンガルチェックというのは、「ターゲット言語が理解できる人=ネイティブであれば誰でも」チェックができると思われていることが感じ取れます。

モノリンガルチェックに潜む落とし穴

モノリンガルチェックは重要なプロセスではありますが、落とし穴があると感じました。確かに、モノリンガルチェックというぐらいなので、ターゲット言語に対する理解度が十分であれば良いわけです。ただ、そうなると、人によってチェックする視点や指摘の量が変わってきます。この個人差というのは、品質に影響を与えかねません。

こちらがどれだけプロセスをしっかりと踏んで品質を保てるような翻訳を提出しても、追加のプロセスで下手をすれば、翻訳時に決められていたルールが破られるなどによって、品質が崩れてしまう可能性もあるわけです。

例えば、以下のようなドイツ語の文があったとします。
原文:Unsere Ausstattungspakete machen ihn zum idealen Begleiter für nahezu alles, was Sie vorhaben.(Volkeswagen HPより引用)

今回はあえて逐語訳をして、その訳だけを見て修正してみます。この文はウェブサイトの製品紹介ページに使用される文言のため、「堅苦しくなく、端的でキャッチーな表現に変えてほしい」という要望を受けたとします。
逐語訳:我々の製品は装備が充実しており、ほとんどの予定に適応する理想的な相棒となるでしょう。
修正訳①:充実の装備でどんな時でも頼りになります。

修正訳①はやや極端に修正していますが、DeepLを使ってドイツ語と統語的に似ている英語に翻訳してみると、修正訳①が原文と少し乖離していることがさらによくわかります。
DeepL:Our equipment packages make it the ideal companion for almost anything you have in mind.

そこで、JTF翻訳品質評価ガイドラインの「流暢さ」に該当する箇所だけ修正するというルールを設けて、再度修正してみました。
修正訳②:装備が充実していて、ほとんどの予定で活躍する理想的な相棒となるでしょう。
原文の特徴を修正訳①より残すことができたようです。

本記事で取り上げた問題は、チェックして欲しい項目やどのようにチェックするかといったルールが定まっていないことで巻き起こるのかもしれません。そのため、重要となるのは、何をどのようにチェックするのかというルールをお客様と一緒に決めてしまう、要するに言語化することではないかと思うのです。そうすれば、現地社員も日本の社員も翻訳会社も納得のいくプロダクトになるのではないでしょうか。

感想

今回は社会に出てみて感じたことをまとめてみました。

現場では、想定以上に曖昧な言葉で翻訳が語られることも多く、側から聞いているとそれで意思疎通ができているのかな?と少し疑問に思うようなやりとりを目の当たりにすることもあります。いかに経験的に翻訳に携わってきた人が多いかを実感する日々の中で、翻訳学を専攻した自分ができることは一体なんだろうと模索しております。

翻訳学習者としても社会人としてもまだまだひよっこですが🐣、立派なニワトリを目指して頑張ります🐓

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