メタファーであそぶ【メタファーの翻訳】

翻訳のあれこれ

こんにちは!

本投稿は、言語に興味のある大学院生がメタファーを日常から拾ってきて、それを翻訳してウハウハするという、かなりオタクなことをした記録です(笑)。

翻訳学を勉強している大学院生は、日々こんなことを考えて楽しんでいるということをお伝えできればと思います!

楽しんでいってください☺

メタファーとは

まず、メタファーの定義からお話します。

そんなん知ってるわ!という方は、読み飛ばしてくださいね。

広辞苑では、「ある物を別の物にたとえる語法、たとえを用いながら、表現面にはその形式(「如し」「ようだ」等)を出さない方法。暗喩法。」と書いてあります。

例えば、私の好きなバンド ヨルシカの曲の歌詞に「君の言葉が呑みたい」という一節があります。言葉って、ごっくんって呑めますか?無理ですよね。この歌詞では「言葉」が呑むことのできる物体もしくは液体と捉えられているのです。

これを聞いて、「言葉を、呑む?呑めないよ。」と思わずに、何かを呑んでいる姿をイメージしたり(私はハウルの動く城のハウルが魂を飲み込む瞬間を思い出しました笑)、言葉を聞きたい/読みたいということだな、と瞬時に連想できるのが人間の認知の力です。

では、もう少し深く踏み込みます。

レイコフとジョンソン(1980)によると、「言葉は飲み物/食べ物だ」という、この歌詞の裏側(深層)にある概念を概念メタファーといい、この概念が歌詞(表層)にあらわれた「君の言葉が呑みたい」は言語メタファーといいます。

概念メタファーがそのまま使われる例ももちろんありますが、私たちが目にする多くは言語メタファー(=表層)です。ややこしいかもしれませんが、以下で具体例をたくさん挙げるので、わかってくると思います。

このメタファー(隠喩、暗喩)という修辞技法ですが、私たちが思っている以上に日常に溢れかえっています。

メタファーが日常に溢れかえっている」というのもメタファーです。

メタファーという修辞技法のことを、なにか溢れかえることのできる液体のようにとらえているのです。

そもそも目に見えないものは(物理的に)溢れかえることができないですよね。こう考えると、概念などの目に見えないものを指す言葉に対して、メタファーにならないように述語をあてるほうが難しい気がしてきますね…。

私自身、今まではメタファーってポエティックに何かを語りたいときとか、文学っぽい文章を書くときに積極的に使われるもの、という認識だったので、認知言語学的な定義を知った時はかなり衝撃的でした。

レイコフとジョンソンの定義に従えば、他にも「思考を組み立てる」とか、「意見をぶつける」なども全てメタファーということになります。

メタファー × 翻訳 のお話

メタファーを翻訳する際には、そのメタファーがある言語または文化特有の場合があったりするので、苦労します。

例えば「口が滑る」という慣用句がありますよね。これも、口が本当にどこかを滑るわけではないのでメタファーということになりますが、英語にはmouth (口)がslip(滑る)するという慣用句はありません。

何かをうっかり言ってしまうという表現はもちろん英語にも複数存在しますが、I slipped my mouth では意味をなさないのです。

ちなみに、英語では a slip of the tongue(舌の滑り)という表現で「意図せずうっかり何かを言ってしまう」という意味になるそうです。”It was just a slip of the tongue.”「口が滑っただけだよ。」のような使い方をします。同じことを意味する表現でも、言語が変わると使われる体の部分も変わるのはおもしろいですね。

このような二言語間の違いにより、メタファーの翻訳をする際には何か工夫をしなければならないことがあります。

……なのですが、今回は、そんな話ではなく、ただメタファーを持ち寄って、考えられる限りの翻訳を出してみようという遊びです(笑)

メタファーって、何かを何かに例えているということで、本当に意図することを汲み取るには想像力が必要ですよね。故に解釈の幅も出てくるわけです。

解釈の幅が広がるということは、その膨れたイメージを言葉に落とし込むなんて無限のパターンがある気がしませんか?(←メタファー連発の一文で、なんだか抽象的な気がしますね笑)

わくわくしてしまいます。

ということで、以下が遊びの記録です。

翻訳に挑戦

前置きが長くなってしまいましたが、私たちがメタファーで遊んでみた、ここからが本編です☺

まず、8種類の英語のメタファーを持ち寄ったのですが、議論が盛り上がった(≒解釈の幅がより広かった)ものを厳選して紹介します。各メタファーについて、一応10分の時間制限を設けて考えました。紹介するのは2つです。

My heart is drenched in wine. (Don’t know why / Norah Jones)

アメリカのジャズ歌手ノラ・ジョーンズの有名な曲からの一節です。

ゆったりと悲しげだけど、テンポのいい曲調に「あなた」を思う言葉がのせられています。

表面的な意味としては、「私の心はワインに浸っている」というような感じですかね?

心(感情)が実際にワインに浸っているわけではないですが、ワインに浸かることのできる物体だと捉えているという点で、メタファーだといえます。

この歌詞の意図としては、要するに落ち込んでいます。「私はなぜあなたの元を去ってしまったのだろう」と。心臓がワインに浸っているような気になるほどワインを飲んだのかもしれないし、自分の心がサングリアのフルーツみたいにへにゃへにゃになっているように感じているのかもしれない。。。

以下、10個ほど出した訳の中からふたりのお気に入りをご紹介します。

1. 私の心はワイン漬け /Yuki
2.今の感情ごとワインに浸かるの /Rina
3.ワインを心臓まで流し込むの /Rina

全部かなり「意訳」と言えると思います。

Your love was handmade for somebody like me (Shape of you / Ed Sheeran)

二つ目は、2017年に大流行したエド・シーランのShape of you の一節です。

love was handmade という部分が、love を手作りできる物体だと捉えているという意味で、これはメタファーです。

言語の表面的な意味としては、「君の愛は僕みたいな誰かのために手作りされたんだ」って感じですかね?

この1文に対して私たちが10分ほどで出した試訳のうち、ふたりのお気に入りに認定された3つをご紹介します。

1.君のあたたかい愛は
 僕みたいなやつに注いでよ /Rina
2.君が愛せるのは僕だけ /Yuki
3.君と僕は運命共同体 /Yuki

こちらもかなり言語の表面的な意味とは異なる訳が出ていますね。

定義を踏まえて少し解説…

こんなことをして二人で「それいいやん」「それ好き、ふふ」などと言っていたのですが、ここでは訳の良しあしには触れず、せっかくなのでメタファーの定義を踏まえ少し分析じみたことをしてみます。

このように訳例をたくさん出して、少し面白いなとおもったのは、原文と訳文における「概念メタファーのズレ(シフト、変化)」です。

原文と同じ概念メタファーで表現しているものから説明します。
一つ目のワインの文で、訳例1では「私の心はワイン漬け」と言っていますね。ピクルスやサングリアみたいに、心がワインに浸かっている情景が浮かびます。この訳の概念メタファーは、原文と同じく「心(感情)はワインに浸かることのできる物体だ」ということで、原文と同じです。

一方で、例えば、エド・シーランの1つ目の訳例「君のあたたかい愛は僕みたいなやつに注いでよ」で”handmade”というメタファーの部分が、「あたたかい愛」となっています。原文では物体として捉えられた「愛」が、温度を感じ取れるもの(熱、火)に変換されました。あと、「注いでよ」と言っているので、液体のように流動的なものとしても捉えられています。メタファーの深層にある概念が変わりました。

「愛」はしばしばメタファーを使って表現されるため、その概念メタファーの種類については少し調べるだけでかなりの情報が出てきます。
参考例: 200 Short and Sweet Metaphor Examples

また、メタファーではなくなった訳例もあります。同じくワインの文の2つ目の訳「今の感情ごとワインに浸かるの」では、”heart”が「感情」となっています。もう、こんな悲しい感情もすべて抱えたまま、ワインをためた浴槽にでも浸かってしまいたい…というような気分をあらわすべくこの訳出にたどり着きました。「感情ごと」と言っていることから、ワインに浸かるのが “my heart” だけでなく自分自身になっていますね。自分自身がワインに浸かることは(物理的には)できると考えると、メタファーではなくなったのかもしれません。

まとめ

言語オタク、翻訳オタクの遊びにお付き合いいただきありがとうございました。

原文からイメージした情景や概念を、文脈や作者のことも考えながら違う言語に落とし込むってすごく楽しかったです。

メタファーは、人間の考えや認知のしかたを反映するが故におもしろく、遊びがいのある修辞技法ですね。

記事の感想や提案など、下記よりお待ちしています☺

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次回の記事ではひとつの歌詞を取り上げて、ポエティックな英文解釈に苦戦した記録をご紹介します。

参考文献

  • Lakoff, G and Johnson, M. (1980). Metaphors We Live By. University of Chicago Press.
  • 高橋英光(2010)「言葉のしくみ: 認知言語学のはなし」 北海道大学出版会.

他にも「メタファー pdf」や「メタファー 分析」と調べると論文がヒットするので、ご興味おありの方は読んでみてくださいね。

また、レイコフとジョンソンのメタファーの定義に疑問を抱いた方や、認知言語学的な、メタファーについての議論をさらに知りたい方は
Haser, V. (2005). Metaphor, Metonymy, and Experiment Philosophy; Challenging Cognitive Semantics. Mouton de Gruyter.
も読んでみるといいかもしれません。

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